お知らせ

2019年度バイオ・ソサエティ医学入門講座

ごあいさつ

公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター
理事長  吉川 敏一

1986年に創立した公益財団法人 ルイ・パストゥール医学研究センターは、ルイ・パストゥールの理念のもと、がんの基礎的研究をはじめ、発がん予防の研究、がん以外の難治性疾患の研究に取り組み、内外にその成果を公表、多くの専門家の皆さんを育成するお手伝いをさせていただいております。

とりわけ1989年5月よりスタートいたしましたバイオ・ソサエティでは、バイオ専門家による情報提供とコンサルテーション共同研究についての提言をさせていただき、その一環としての「医学入門講座」は開設以来30年を経過し、受講生は延べ7,500名を数え、現在、企業の中核的研究者として活躍中の方々が多くおられます。

昨今の激変の様相を呈する医業界にあっては、諸現象に振り回されない、更に突き進んで問題の本質に迫り、立ち向かう変革的挑戦者が求められています。
こうした背景からも、今まで以上に基礎研究の重要性が叫ばれていることは論を待ちません。

当財団は、今年度も京都府立医科大学の教授陣を中心とした医学入門講座を開設します。

これを機会に医学知識の習得と人材育成、新たなる能力開発の見地から、一講座でも多くの方々の受講をお奨めし、ご活用いただければ幸いでございます。

2019年度 医学入門講座 スケジュール

日時:2019年10月2日~10月31日(7日間 全11講座)
午前の部9:30~12:00   午後の部1:30~4:00
会場:ルイ・パストゥール医学研究センター 4F会議室

日程 講座名 講師
10月2日(水) 午前 分子標的癌予防医学 京都府立医科大学創薬センター
教授 酒井 敏行 先生
午後 食品添加物の正しい知識 京都府立大学 生命環境科学研究科
教授 南山 幸子 先生
10月3日(木) 午前 骨粗鬆症と特発性大腿骨頭壊死症について 京都府立医科大学大学院医学研究科
運動器機能再生外科学(整形外科学教室)
後藤 毅 先生
午後 生物統計学(初級) 京都府立医科大学大学院医学研究科
生物統計学
教授 手良向 聡 先生
10月15日(火) 午前 膠原病(自己免疫)疾患の治療の進歩 京都府立医科大学大学院医学研究科
免疫内科学
病院教授 川人 豊 先生
午後 医療とAI(人工知能) 公財)ルイ・パストゥール医学研究センター
AIデバイス研究室
研究員 照岡 正樹 先生
10月16日(水) 終日 わかりやすい統計学(初級) 公財)ルイ・パストゥール医学研究センター
主任研究員 八木 克巳 先生
10月17日(木) 終日 統計学(中級) 公財)ルイ・パストゥール医学研究センター
主任研究員 八木 克巳 先生
10月28日(月) 午前 がん免疫療法について 京都府立医科大学大学院医学研究科 小児外科
特任教授 木村 修 先生
10月31日(木) 午前 iPS細胞研究並びにその臨床と
創薬への応用の現状及び課題
京都府立医科大学大学院医学研究科
細胞再生医学
研究教授 戴 平 先生
午後 造血器悪性腫瘍の治療の進歩 京都府立医科大学大学院医学研究科
血液内科学教授 黒田 純也 先生

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詳細パンフレット

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講義のご紹介

10月2日(水)午前:分子標的癌予防医学    酒井 敏行 先生

使用テキスト:なし

講義概要

がんの治療においては、分子標的治療という概念は存在していた。それに対して、がんの予防に関しては「分子標的」という考え方がなかったので、私自身が「分子標的予防」という概念を提唱した。この考えは原因分子が明らかながん家系の保因者に対する予防法だけでなく、一般的な発がんの予防法においても重要であるが仔細は当日説明する。また、私は発がん機構として遺伝子の突然変異だけでなく、がん抑制遺伝子プロモーターの過剰メチル化による失活が重要であることを世界で初めて見いだしたが、この発見は「がんとエピジェネティクス」という研究分野の嚆矢となった。一方では、発がんにおいてがん抑制遺伝子RBの失活が最も重要であると考え、RBを基幹分子に据えて、国内の10社の企業と、がんの新規予防法、診断法、治療法の開発を行ってきた。中でも産学連携で見いだした新規MEK阻害剤トラメチニブはメキニストの商品名で、進行性BRAF変異メラノーマ、非小細胞肺がん、甲状腺未分化がんの画期的新薬として承認され、世界60カ国以上で使用されている。これらの開発の経緯も含めて、当日お話しさせていただくこととする。

10月2日(水)午後:食品添加物の正しい知識   南山 幸子 先生

使用テキスト:なし

講義概要

人間は古くから、食物が原因となってもたらされるさまざまな健康障害を経験してきました。よって、食物は時として人間の生存と生活をおびやかす存在でもあります。とりわけ近年は食料の生産や供給のしくみが大きく変化し、食料受給率の低いわが国では輸入食品に依存しているところも大きく、長い輸送には保存料や防かび剤などが必須です。また、数十メートル以内に、あるいは道路の両側にコンビニが建ち並び、我々は便利に加工食品を手に入れることができます。しかしながら、ここにも食中毒を起こさないため、食品の安全性を確保するために様々な添加物が使用され、多くの化学物質を複合的に摂取するというのが現状です。このような食品添加物、食品に残留する農薬・飼料添加物、食品に混入する有害物質などがヒトに及ぼす影響を、現在の科学技術で正しく評価されているのでしょうか。このような疑問や社会的背景をふまえ、食の安全性にかかわりのある化学物質である食品添加物を中心に我々の研究結果をご紹介したいと思います。

10月3日(木)午前:骨粗鬆症と特発性大腿骨頭壊死症について  後藤 毅 先生

使用テキスト:なし

講義概要

骨組織は体を支えるためのきわめて強固な支持組織であるとともに、カルシウムやリン酸などの貯蔵組織という側面も持っています。骨組織は常に吸収されては形成される「骨のリモデリング」によって正常な状態が保たれています。骨吸収が骨形成を上回ると、骨強度が低下します。骨粗鬆症は「骨強度の低下によって骨折リスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義され、日本には1000万人以上の骨粗鬆症患者がいます。骨代謝は骨粗鬆症の発生に深く関わり、骨代謝の理解は骨粗鬆症の予防、ひいては骨折による寝たきりを防ぐ一助となります。一方、骨の阻血性疾患である特発性大腿骨頭壊死症は,高齢者に多い骨粗鬆症とは異なり30~50代に好発します。特発性大腿骨頭壊死症はひとたび発症すると人体最大の荷重関節である股関節機能を大きく障害し、生活の質を低下させるため、厚生労働省の難病に指定されています。この講座では、骨代謝と骨粗鬆症,特発性大腿骨頭壊死症について解説します。

10月3日(木)午後:生物統計学(初級)   手良向 聡 先生

使用テキスト:なし

講義概要

最近、データサイエンス、ビッグデータなどの用語をよくみかけますが、データを役立つ情報に変えるためには統計学の論理が不可欠ですし、結果を正しく解釈した上で、正しい判断を行う能力が必要です。統計学は、大きく二つに分類されます。一つは「記述統計学」で、位置の尺度、バラツキの尺度などを算出し、集団としての特徴を記述するためにデータを整理・要約します。もう一つは、「推測統計学」で、データを分析し、母集団についての推測を行います。推測統計学には、頻度流とベイズ流の二大流派が存在します。頻度流統計学の代表的な手法が仮説検定と推定です。頻度流では確率を仮想的繰り返しに基づく相対頻度と解釈し、パラメータを未知の定数と考えます。一方、ベイズ流統計学ではパラメータの不確実さをそのまま確率分布として表現します。本講座では、記述統計学の方法と推測統計学の基本的考え方を初歩的なレベルから解説します。

10月15日(火)午前:膠原病(自己免疫)疾患の治療の進歩 川人 豊 先生

使用テキスト:なし

講義概要

膠原病(自己免疫)疾患の病因は不明な部分が多く、慢性難治性疾患としてとらえられてきた。近年、免疫学の進歩とともに治療薬剤が増え、根治は未だに難しいものの、寛解に達する確率が増加してきている。特に関節リウマチでは、生物学的製剤に加えJAK阻害薬の開発が進み、3剤目が本邦で承認され、さらに骨破壊抑制薬として抗RANKL抗体の使用が可能となった。また、バイオシミラーの開発が行われ、医療経済面も念頭に置き治療薬を選択概念が広がりつつある。ANCA関連血管炎ではリツキシマブ、全身性エリテマトーデスではベリムマブやMMFといった薬剤の使用も可能となり、抗IL-6製剤は様々な疾患への臨床応用がなされている。本講座では、膠原病疾患治療の進歩と今後の展望について解説する。

10月15日(火)午後:医療とAI(人工知能)~医療の立場から眺めるAIの限界と可能性~ 照岡 正樹 先生

使用テキスト:なし

講義概要

大学で脳の仕組みを学ばれた方々には、数学的なAIと生物の機構との本質的な違いのため、AIに不信感を抱かれている人も多いのではと思います。

 私も以前は、鳥と飛行機ではありませんが、ただ飛べばいい(結果が出ればいい)というような、今のAIの仕組みでは、人命を預かる医療分野にはとても使えないと思っておりました。

今回の講義では、そのような経過を踏まえ、現在のAIの仕組みを、医療(医学・生物学)の立場、つまり脳などの仕組みと比較して、一から再検証してみたいと思います。そのことで、AIの仕組みを本質からご理解いただけるのはもちろん、その限界、あるいは逆に脳より優れている点などにつきましても、ご理解いただけるものと思っております。

講義の後半では、創薬など、実際に医療分野で使われ始めておりますAIの応用事例をいくつかご紹介し、その後、我々が関係しております、睡眠時無呼吸症候群の解析にAIを使用した事例につきまして、ご紹介いたします。

最後に、今後の医療系AIの進むべき方向性につきまして、腰ベルト型生体センサを例に

ご説明いたします。
10月16日(水) わかりやすい統計学(初級)/10月17日(木) 統計学(中級)  八木 克巳 先生

使用テキスト:「JMP活用 統計学とっておき勉強法」(新村 秀一 著/講談社ブルーバックス)

講義概要

数年前に「統計学が最強の学問である」という本がよく売れ、これに続き、「週刊エコノミスト」や「週刊ダイヤモンド」が特集記事を載せていました。また,Googleのチーフエコノミスト ハル・ヴァリアン博士は「今後 10 年間で最もセクシーな仕事は統計学者である」と。

サイエンス全般では、得られたデータからその意味するものや、メカニズムを読み解くことが基本です。そのためには、統計学的な考え方や処理は大切でしょう。医学、薬学でのEBM(evidence-based medicine) においては、統計学的な手法はその基礎と言えます。

講義では、基礎的な導入からはじめ、さらにテキスト「JMP活用 統計学とっておき勉強法新村秀一著 講談社ブルーバックス」(こちらから配布)を利用して、実用上で重要な手法を解説します。なお、2つの講義は内容的には関連していますので、受講される場合は両方を受講されることを勧めます。

統計学①:1.データの視覚化 2.データの基本統計量 3.母集団と標本 4.正規分布 5.基本的な考え方 6.p-値
統計学②:7.t-検定 8.ANOVA 9.多重比較 10.分割表 11.回帰分析 12.ロジスティク回帰分析

10月28日(月)午前:がん免疫療法について  木村 修 先生

使用テキスト:なし

講義概要

免疫チェックポイント阻害剤の登場により、がん治療における免疫療法が日本でもようやく注目されるようになってきた。しかし、実際の臨床現場ではその効果は非常に限定的であり、多くのがん患者さんでは、当初に期待したほどの効果は認められていないこともまた事実である。

本講座では、免疫学における抗腫瘍免疫にスポットを当て、実際に効果的な免疫療法をするためには、免疫チェックポイント阻害剤だけではなく、どのような科学的知識が必要であるか、そしてそれを実践し、進行した癌を寛解に持っていくためにブレイクスルーすべき壁がどこにあるのかということなどを、以下の項目を中心に、実際の治療例などを交えてより具体的に解説する。

  • 自然免疫(NK細胞)増強か、獲得免疫(T細胞)増強か?
  • がんに特異的な免疫を誘導するには何が重要か?
  • 免疫チェックポイント阻害剤の役割とその重要性とは何か?
  • がん微小環境の重要性そして、敵を味方に変えるには?
  • がんに対する免疫応答性を低下させる要因は何か?
10月31日(火)午前:iPS細胞研究並びにその臨床と創薬への応用の現状及び課題  戴 平 先生

使用テキスト:なし

講義概要

再生医療は、幹細胞を用いて疾患や障害により欠損や変性を被った組織の修復と再生を助ける新しい医療です。幹細胞の研究において2006年(平成18年)に京都大学山中伸弥教授らにより、皮膚などのからだの一部である細胞に、特定4つの遺伝子を入れて育てると、さまざまな組織や臓器の細胞になれる初期胚の細胞のような能力を持つ、しかもほぼ無限に増やせる細胞、マウス人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells、略してiPS細胞)の樹立が報告され、次いで翌年2009年(平成19年)ヒトのiPS細胞の樹立が発表されました。2012年(平成24年)に山中教授にノーベル生理学・医学賞が授与されました。

iPS細胞は、失われた臓器やからだの機能を修復させる「再生医療」に応用できるほか、生命が生まれ育つ仕組みを解き明かすことで、新薬や新たな治療法の研究開発にもつながります。ヒトiPS細胞作製の発表から今年で10年になりました。本講座では、iPS細胞の初歩知識・最新研究情報を踏まえ、その臨床と創薬への応用の現状及び課題と今後の展望について解説・議論します。

10月31日(火)午前:造血器悪性腫瘍の治療の進歩 2019 ~化学療法と細胞治療の過去・現在・未来~   黒田 純也 先生

使用テキスト:なし

講義概要

造血幹細胞は、その多分化能と自己複製能によって、生涯にわたって身体のエネルギー産生、生体防御を担うあらゆるタイプの血液細胞の供給源となります。しかるに、多種多様な正常血液細胞への分化段階において染色体・遺伝子異常が生じることによって分化障害と無秩序な細胞増殖能を獲得し、遂には腫瘍化に至るのが造血器腫瘍です。これらの分子腫瘍学的異常は種類も多種多様であれば、それが生じる発生母地も多様ですから、結果として生じる造血器悪性腫瘍も極めて多種にわたります。かつては疾患種を問わず高度難治であった造血器悪性腫瘍ですが、積年の研究成果により各疾患の分子生物学的病態の解明が進む一方、分子標的薬の創薬技術、造血幹細胞移植学が劇的に進歩し、疾患種毎に高度に細分化された、より科学的合理性の高い治療戦略が実現可能になってきています。さらには免疫学的細胞治療戦略の発展も目覚ましく、日常診療での応用が急速に進められています。本講義では、造血器悪性腫瘍の診療の歴史を振り返りつつ、その進歩と現状、未来について、代表的3大疾患である悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病を題材に広く紹介いたします。

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